仔鯨に逢いに

 

 

大阪湾にクジラがやってきた、
そんなニュースを見つけて居ても立ってもいられなくなって
出ている情報を頼りにクジラさんに挨拶できるかもしれない場所を勘で目当てをつけて
明日海まで挨拶に行こうと決めてお布団に入ったけれどなかなか眠れなかった

明日にはもう大海原へ帰っていってしまっているかもしれないけれど
目を閉じて、この大阪湾にたどり着いてくれたクジラさんにこころで声をかける
こんなに近くまで来てくれたこと、ただ感謝する

翌日夜明け前、電車とバスを乗り継いで淀川河口まで急ぐ
暗くて人がまばらな大阪の街は、どこか異国のアジアの都市のようで旅の朝みたい

同じお空の下にクジラさんが来てくれてたんだ
そう思うだけで胸がいっぱいになる

おっきな海みたいな人も
約束はしていなかったけれどちゃんと朝一番に起きて待っていてくれた
同じバスで海まで向かう

淀川が見えて途中でバスを降りて堤防に上がる
望遠レンズをつけたカメラや双眼鏡を持ったおじさんたちが数人
その肩越しに、クジラの背が見えた!
潮を吹いてる

 

 

人生で初めてこの目で見るクジラの気配に圧倒されてしまう
ことばが出てこない
ずっとずっとこの堤防からただ見つめる
おじさんから双眼鏡を借りて覗くと長い背中がよく見えた

高層ビルの風景や高速道路に車が走る音とクジラ
不思議なきもちになる

 

 

 

ああ、あなたはこの向こうの遠くの海からやってきたんだね
海はどこまでもずっとずっと続いているんだね
当たり前のことだけど深く腑に落ちた

 

 

わたしたちを一気におおきな世界に連れ出してくれたような今朝の時間
いつの日かこの日のことを思い出して
大阪までやってきてくれたクジラが自分たちを遥かのその日まで案内してくれたと気づくことになるだろう
そんな出来事だった

お正月からずっとのそのそしている自分に渇を入れられたような
でもずっと夢の中のような
記しておきたい瞬間

 

わたしの2023年はそんな風に始まっていきました
あたらしい年も、どうぞよろしくお願いいたします

 

 

淀川の河口の公園、寒そうな椰子の木の枯れた枝が美しくて少しいただく
そこらへんの頑丈な蔦で括ったら
あの海にいるクジラさんそっくりな子になった
バスと電車と自転車で担いで
わたしの部屋まで来てくれた!